秘密の出産をするはずが、エリート外科医に赤ちゃんごと包み愛されています
「お疲れさまです」
緊張しないと言えばうそになる。顔を合わせば気まずさも感じるだろう。
でもきっと大丈夫だ。
避けては通れない道だと思い、ナースステーションに足を踏み入れた。
夕方のこの時間、緊急事態でない限り三井先生が病棟にいる可能性は極めて低い。
だから私は油断していた。
目の前に聴診器を首にかけたスクラブ姿の三井先生が立っていたからだ。
「お疲れ。寝坊しなかったか?」
固まる私を見て三井先生は苦笑した。
普段となんら変わらない態度で、まるで昨夜の出来事なんてなかったかのよう。
きっと三井先生にとってはなんでもない出来事だったのだろう。
わかりきっていたことに、いちいちショックを受けている場合ではない。
私はそれを一切表に出さないよう細心の注意をはらいながら、顔に笑みを貼りつけた。
「はい、大丈夫です。ご迷惑をおかけしました」
いつも通りに答えられたと思う。これも仕事のうちなのだと割り切れば問題はない。
「では、失礼します」
「待て、芹沢」
すれ違いざまに名字を呼ばれ思わず足が止まる。
「……なんでしよう?」
「明日の夜、また会いたい」
「……っ」