秘密の出産をするはずが、エリート外科医に赤ちゃんごと包み愛されています
仮眠室のそばに階段があり、緑の非常灯がついたり消えたりしていた。
「芹沢?」
「ひっ……!」
「静かに」
階段側の扉から突然スッと現れた黒い影に、思わず悲鳴が漏れそうになった。
けれどだめだと思いとどまり、なんとか抑えることができた。
「み、三井先生」
「驚かせたか」
そう言ってクスクス笑う三井先生は、シャンデリアの下でも非常灯の下でも、その魅力は変わらない。
「ど、どうしてここにいるんですか」
「どうしてって、俺も当直だからだよ」
それは知っています。
でも聞きたいのはそんなことではない。
「たまたま通りかかったんだ。驚かせて悪かったな」
どうやら私の表情から意図を察したらしい。ううん、最初から知っていてわざとこんなふうに言ったのだ。
「今から仮眠か?」
「そうです……」
「ゆっくり休めよ、お疲れ」
「え、あ、はい、お疲れさまです」
ひらひらと後ろ手に手を振りながら、三井先生は階段を降りていった。
そうだよね、いつまでも私にかまっているほど暇じゃない。
それに業務中なのだから、何かあると期待する方がおかしい。
昨日の出来事が特殊だっただけ。
もう忘れるって決めたじゃない。
今度こそちゃんとなかったことにする。
そう胸に秘めて、私は眠れない夜を過ごした。