秘密の出産をするはずが、エリート外科医に赤ちゃんごと包み愛されています
「す、好きなんですっ!」
耳まで真っ赤にさせながら、真剣な瞳で、震える声で、必死に言ってくれているのが伝わってくる。
「こんな場所で言うべきことじゃないのはわかってるんですけど、我慢できなくて」
「斉木さん、本当にごめんなさい。お気持ちはとても嬉しいんですが……」
「ぼ、僕の何がだめなんでしょうか?」
今にも泣きだしそうなほどの弱々しい声に、心臓が押しつぶされてしまいそうになる。
「何がだめとかではなくて……」
「教えてください、お願いします!」
この様子だと、適当な理由を言っても彼には納得してもらえないだろう。
真剣に言ってくれているのだから、こちらも誠実に返さないと失礼なのではないか。
これまで逃げていたツケが回ってきたのだ。
「あの……実は私には好きな人がいるんです。だから、ごめんなさい」
「好きな、人……それは彼氏ってことですか?」
「いえ、そうではなくて私の片想いです。その人以外考えられないから、斉木さんの気持ちにはお応えできません」
「……」
つかまれている腕をゆっくり振りほどくと、彼の手は力なくダランと垂れ下がった。
「ごめんなさい、失礼します」
放心状態の斉木さんを置いて私はその場から立ち去った。
病棟奥の仮眠室のそばだったこともあり、スタッフや患者の目にさらされずに済んだのが幸いだ。
これでよかったんだよね?
冷たすぎやしなかったか、もっと他に言い方はなかったか、言ったあとで心苦しくなり、ぐるぐるとそんなことを考える。
いやいや、これでよかったんだよ。
決して嘘偽りを言ったわけではなく、本心だったのだから。