秘密の出産をするはずが、エリート外科医に赤ちゃんごと包み愛されています

安成さんは数カ月前にこの町に戻ってきて親の店を継ぎ、自ら店の改修工事をして大衆居酒屋『大安』からダイニング居酒屋『大安』へと生まれ変わらせた張本人。

今風のレンガ造りのきれいな外観はカジュアルな上に高級感もあってとてもおしゃれ。メニューは増えることはあっても減ることはなく、代々引き継がれてきた味とこだわりを大切にしているのだとか。

ブレない強い信念と味で、これまで慕っていた常連客も離れることなく通っているんだと二人が教えてくれた。

「それにしても、本当にイケメンに育ったわねぇ。あの子、うちの産院で取り上げたのよ」

「え、そうなんですか?」

「年齢はたしか、芹沢さんと同じくらいよ。高校卒業と同時にこの町を飛び出して東京の大学に行ったんだけれど、前の店主が体を壊してからはこっちに戻ってきてね。本当によくやっていると思うわ」

二人はまるで母親が子供を見るような優しい眼差しで、安成さんを見つめる。
小さい町だからこそ、こういうこともあるのか。

「本当にいい子なのよ。娘が既婚者じゃなければ、お婿さんにきてほしかったくらい」

ほとんど会話らしい会話はしていないけれど、安成さんはよそ者の私にも変わらない笑顔を向けてくれた。

初めて店にきた時、温かく迎え入れてくれ、ホッとしたのを覚えている。

爽やかな微笑みが特徴的な安成さんは、男性にしては線が細く、長身な上にモデル体型。そんな彼目当ての若い女性客がここ最近でグンと増え、店内は今日も賑わっている。

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