秘密の出産をするはずが、エリート外科医に赤ちゃんごと包み愛されています
あっという間に月日は流れ、夏から秋になったかと思うと、めまぐるしい早さで秋から冬へと移り変わった。
海から向かってきた風が、産院の窓ガラスをカタカタ揺らす。今日も外は底冷えするような極寒だ。
こんな日は不思議と外来患者も少ないのよね。
院長先生と助産師の滝野さんがお産のため不在なのでちょうどいい。
在宅での出産を希望する妊婦には、院長先生と助産師の小園さんが訪問する形での対応となる。
在宅を希望する妊婦は多いが、体重管理や年齢制限、この町に住む妊婦限定といった様々な条件があるため、数はそこまで多くない。
たとえ在宅でのお産ができたとしても、分娩中に少しでも異常があればすぐに病院へと搬送されてしまう。
出産は奇跡だって聞いたことがあるけれど、本当にその通りよね。
無事に生まれてくるまでまだまだ安心はできない。
「芹沢さーん、まだ産まれないみたいだから、私たちは今のうちに休憩しちゃいましょうか」
院長先生から電話連絡を受けた受付の小園さんが、診察室の私がいる場所まできて声をかけた。
「はい、ありがとうございます」
もうそんな時間なのか。
午後からの予約はほどほどに入っているが、午前中もキャンセルの電話が相次いだことから、果たしてどうなるやら。
戸締まりをし、休憩室で小園さんと向かい合って座る。
「ずいぶん目立ってきたわね」
私を含む院長先生を始めとするスタッフみんなが、この子の誕生を心待ちにしている。
「最近じゃ胎動が激しくて夜も寝られないんですよ」
「来月が予定日だなんて、あっという間よねぇ」