秘密の出産をするはずが、エリート外科医に赤ちゃんごと包み愛されています
今日まで大変なことも多かったけれど、無事にここまで育ってくれたことには感謝しかない。
「この町の方は、みんないい人ばかりですね。こんな私にも優しくしてくださって、感謝してもしきれません」
小園さんは目を丸め、瞬きを数回繰り返すと、今度は優しい微笑みを浮かべた。
「私もね、芹沢さんぐらいの年齢でこの町にきたの。同じように妊婦だったわ」
「あ、え、そうなんですか」
初めて聞かされる事実に驚きを隠せなかった。
「女手一つで娘を育てる私に、みんな温かい言葉をかけてくれたわ。そんな中で今の主人にも出会ったの。主人は娘を実の娘のように可愛がってくれてね。いざ再婚しようとなった時、主人の親御さんに反対されることを覚悟で挨拶に出向いたら、意外や意外。みんな温かく迎えてくださったの」
小園さんは当時のことを懐かしむように目を細めた。
「この町の人はよそから嫁いできた人や、のっぴきならない事情があって移り住んできた人が多いから、きっとみんな、自分の姿を重ねているのよね」
人の温かさや、誰にも深く詮索されない理由が初めてわかった気がした。
「だから芹沢さんも、何かあったら遠慮なく相談してね。昔の私を見ているようで放っておけないのよ」
胸にじんわり安心感が広がって涙があふれそうになる。
「誰だって一人では生きていけないんだから、一人で育てようなんて思わなくてもいいのよ」
「ありがとう、ございます……」
胸が熱くなって、そう返すだけで精いっぱいだった。
「まだまだ若いんだから、芹沢さんにぴったりな素敵な人だって現れるかもしれないわよ。安成くんとかね」
「そ、そんな、私は」
「ふふっ」
本気か冗談なのかはわからなかったけれど、小園さんが私を元気付けようとしてくれていることは伝わってきた。
「とにかく一人で無茶はしないこと。いいわね?」
そこまで言い切られてしまっては頷くより他になかった。