秘密の出産をするはずが、エリート外科医に赤ちゃんごと包み愛されています

そう伝えると察してくれたらしく、安成さんは柔らかい笑みを浮かべた。

「まだ生まれてもない子に気に入ってもらえるなんて嬉しいです。その子が大きくなったら、ぜひうちの店に食べにきてください」

「ええ、もちろんです」

そのあと二人組の客が入ってきたことで、安成さんとの会話は終わった。

今日一人ででもきてよかった。

だし巻き卵はもちろん、鯛飯も鶏の甘酢あんかけも絶品で、あっという間に平らげてしまった。

「く、苦しい……」

大きく膨らんだ子宮に胃が圧迫されてただでさえそんなに食べられないのに、さすがにこれは食べすぎだ。

お腹がパンパンではち切れそう。

「ごちそうさまでした」

お会計を済ませて店を出ると、ハラハラと雪がちらついていた。

吐く息が白く、凍えるような寒さだ。

こんな日は熱い湯船に浸かって芯から体を温めたい。

そういえばあの時も、こんな風に雪がちらついていたっけ。

舞い落ちてくる雪を見上げていたら懐かしい気持ちが込み上げた。

あれはもう何年前のことになるだろうか。

私がまだ高校生だったから、約十年といったところか。

十年前、私と三井先生は初めて出会った。

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