秘密の出産をするはずが、エリート外科医に赤ちゃんごと包み愛されています

「はぁ」

職員専用のカフェレストランで遅めのランチを食べながら、出るのはため息ばかり。サラダバーで盛ったレタスをモソモソ頬張っていると、向かい側の椅子が引かれた。

「一緒にいいか?」

三井先生はにこやかに微笑みながら私の返事を待たずして着席した。回診時には白衣を羽織っている三井先生だが、今はネイビーのスクラブ一枚で胸ポケットには院内用のスマホが入れられている。

この前のことがなければこんなに胸がざわつかなくて済んだのに。どう対処すればいいかわからず、箸が止まっている私を見て三井先生は小さく笑った。

「そんなに身構えるなよ」

「べつにそういうつもりでは」

誰のせいだと思っているんですか。本音はそうだ。でも口にはしない。余計なことは何も言うまい。それが一番いい。

「いただきます」

丁寧に手を合わせてから器用に箸を持ち、ハンバーグ定食のメインであるハンバーグを美味しそうに口に入れる姿はまるで子どものよう。

三井先生のことは私が高校生だった頃から知っている。祖母が脳腫瘍で入院していた時にお世話になったのだ。その頃彼は研修医で、寝る間も惜しんでベテラン医師の後をついて回っていた。

毎日が忙しなくて私など眼中になかっただろう。

それから何年かして私は国立の看護大学に進学した。そこで脳外科の講師として講義にきていた三井先生と再会した時は驚いた。

と言っても私が一方的に知っていただけで、彼は私を認識してはいなかったのだけれど。

「なんだ? 人の顔をじろじろ見て」

「い、いえ、すみません」

突然目が合い思わず視線をそらす。

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