秘密の出産をするはずが、エリート外科医に赤ちゃんごと包み愛されています
「くしゅん!」
ど、どうしよう、やってしまった。
ここしばらく風邪なんて引いたことはなかったのに。
幸いなことに熱はなく、咽頭痛と咳と鼻水だけ。仕事には支障ないが、なんせ勤務先は産院である。
患者は妊婦がほとんどなので、小さな風邪でも移してしまっては大変だ。
職場に電話をすると院長先生が出た。
「それは大変ですね。今日はゆっくり休んでください。具合が悪いようでしたら様子を見に行きますので、すぐに連絡してくださいね。お腹の赤ちゃんに何かあってはいけませんから」
弱っている時だからこそ、院長先生の優しさがいつもよりも身に染みる。
私が休むことで多大な迷惑をかけてしまうのに、優しい言葉をかけてくれる院長先生には頭が下がる思いだ。
寝ていれば治る。
これまではそうだったけれど、妊婦となった今、免疫力が低下していることもあって、その考えは甘かったと思い知らされることになる。
「あ、熱い……」
数時間も経つと体がだんだん火照ってきて、意識が朦朧としてきた。
これは確実に熱があるだろう。
どうしよう……。
電話した方がいいのかな。
それに気のせいかもしれないけれど、なんとなくお腹が張っているような気がする。
「ん……っ」
立ち上がろうとしてみても、体が重くていうことを聞かない。しかし、胎動はあるから赤ちゃんは無事なのだろう。
でもこんな状態でいつどうなるかわからないと思うと恐怖しかない。
こういう時近くに誰かがいてくれたら心強いのにと、普段なら思わないような考えが頭をよぎる。
手探りでスマホをつかみ、震える指でボタンを操作する。
【関根医院】
朦朧とする意識の中、履歴から番号を表示し電話をかけた。