秘密の出産をするはずが、エリート外科医に赤ちゃんごと包み愛されています

「はい、連絡すればくると思います。お手数おかけしました」

「いえ、体調が悪い時に一人でいるのは心細いですよね。僕も今は一人で住んでいるので、芹沢さんの気持ちがすごくわかります」

頭を掻きながら眉を下げてはにかむ安成さんも、これまでに色々な経験をしてきたに違いない。

「何かあったんですか?」

理由なんて聞いてはいけないのかもしれない。けれど聞かずにいられなかったのは、安成さんがとても寂しそうに笑ったから。

「すみません、ただの戯れ言だと思って聞いてください。この町に帰ってくる前、僕は東京で商社マンをしていたんです」

安成さんはポツポツと過去の話をしてくれた。

幅広い食品を取り扱う商社で海外出張なども頻繁にしており、営業成績も良く、安成さんは将来有望株だったようだ。

その時一緒に暮らしていた恋人がいて、彼女もまたバリバリのキャリアウーマンだった。

そんな彼女が大きなプロジェクトの責任者に抜擢され、これから大きく羽ばたこうという時に、安成さんの父が倒れた。

母を早くに亡くしていたらしい安成さんは、一人暮らしの父の世話をするため、苦渋の決断を迫られた。

その結果、商社をやめ、彼女にも別れを告げ、一人でこの町に帰ってきたのだとか。

「今の仕事にやりがいがあるので、会社をやめたことは後悔していないんです。ただ……」

安成さんは彼女に本当のことを告げず、一方的に別れを切り出したのだとか。

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