秘密の出産をするはずが、エリート外科医に赤ちゃんごと包み愛されています

「おやおや、お嬢さん方、涙を浮かべてどうしたんですか」

「い、院長先生っ……!」

カーテンの隙間から関根院長が顔を出した。突然のことに美咲も私も目を見開く。

「お見舞いにきたんですが、お取り込み中だったようですね」

「あ、いえ、違うんです」

もしかして会話を聞かれていた?

サーッと顔から血の気が引いていく。

聞かれていたとしても特に何も言われないだろうけれど、過去をなに一つ話していない身としては、こんな形で知られるのは不本意だった。

「そちらは以前お勤めだった宮花大学病院の?」

「あ、はい、同期の井田と言います」

「そうですか。私は芹沢さんが務める産院の関根と言います」

院長先生は持ち前の微笑みを浮かべながら、美咲に向かってお辞儀をした。

「差し入れです。たくさんあるので、よければご一緒にどうぞ。では、私はこれで」

院長先生は手短にそれだけ言うと、差し入れを美咲に託して踵を返した。

「わ、座敷楼の回転焼きだ」

「いい院長先生に恵まれたわね」だなんて、喜々として声を上げる。

「まだ温かいわ。ほら、杏奈も食べよう」

「あ、そうだね」

いくら考えたって仕方がないわよね。

たとえ聞かれていたとしても話の内容的にはなんの問題もないはずだ。

きっと大丈夫。

自分にそう言い聞かせ、私は差し入れの回転焼きを口に運んだ。

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