秘密の出産をするはずが、エリート外科医に赤ちゃんごと包み愛されています
車だと一時間の距離だが、バスと電車だと一時間半はかかる。
遠いと移動もなかなか大変だ。
それに陣痛がいつくるかもわからない中、長時間の移動は緊張する。
こういう時、頼りになる人がいてくれたら心強いなぁとは思う。
だめだめ、強くなるって決めたのだから。
防寒対策をしっかりして部屋を出たけれど、凍てつくような寒さが身に染みる。
「さ、寒い」
外に出るのが億劫になるほどだ。海沿いの道を歩きバス停に着く頃には、寒さで震えが止まらず、手袋の下の手は氷のように冷たかった。
寒さで道が凍結し、バスのダイヤが大幅に乱れていた。すでに行ってしまった後らしく、まだまだやってきそうもない。
時間通りにやってくるのかもわからなくて、これならタクシーを拾う方が早いかもしれない。
しかし、この町にタクシーはほとんど走っておらず、検索しても隣町までの範囲しか出てこなかった。
予約時間に遅れるわけにいかないし、いったいどうすればいいのか。
そこへ一台の車が目の前を通り過ぎた。黒のセダンでひと目で高級車だとわかる。
乗っている人の顔までは見えなかったが、この町で外車など見たことがなかったので、とても目を引いた。