秘密の出産をするはずが、エリート外科医に赤ちゃんごと包み愛されています

ありありと頭に浮かぶ数日前の光景。

「あれはご冗談ですよね?」

それなのに返事を求められて困惑する。

そう、この前のはいつもの軽いノリ。

だって、そうでしょう?

「冗談? そんなはずないだろ。俺はいつでも本気だよ」

容姿のよさだけでなく聡明さも感じられる三井先生だけに、ポカンと開いた口が塞がらなくなる。

「芹沢」

日射しを背に微笑を浮かべる三井先生の魅力たるやすごい。とっさに目をそらすと笑われる気配がした。その声さえもが、私の胸をかき乱す。

「俺の恋人になってくれないか」

あの日と同じ衝撃が胸に訪れ、微動だにできず硬直する。

聞き間違いではないだろうか、いや、そうであることを願う。

まるで日常会話のようにそう言ってのけた彼は、箸を止めることなくあっという間にハンバーグを完食し、サイドメニューのポテトサラダに手をつけた。

「こ、恋人というのは男女がお付き合いするという意味の……?」

未だに納得なんてできない。どうして私なのか、そもそも何を言われているのだろうか。理解が追いつかない。

「当然だろう」

「……っ」

この余裕っぷりは言い慣れているから?

普通、恋人になるにはもっとこう段階的に進んでいくものでは?

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