秘密の出産をするはずが、エリート外科医に赤ちゃんごと包み愛されています
「そうでも言わないと、杏奈はまた逃げるだろう?」
「そんな、私は」
これ以上一緒にいたら絆されてしまう。決意がグラグラ揺らいでしまいそうになる。心の奥底から押し込めたはずの気持ちがあふれそうになる。
でもそれは彼にとって迷惑にしかならないから、隠し通さなきゃいけない。
小さくギュッと唇を噛み、言葉が出そうになるのをグッと堪えた。
「三井先生が何を考えているのかわかりません」
たった一夜を共にした相手にここまでするなんて。
「俺は杏奈のことしか考えていない」
「……」
「あの時もそう言おうとしたんだ」
あの時とは当直室でのことだろうか。とてもじゃないけど信じられない。
「か、からかうのはやめてください」
「だったらこんなところまでこないよ。本気だ」
本気。その言葉に目を丸くする。
三井先生の瞳は真剣そのもので、とてもじゃないけど嘘を言っているようには見えない。
『杏奈のことしか考えていない』
いわゆるそういうこと?
でも、どうして?
いつどこで?
どれだけ考えても納得などできない。それなのに、ふつふつと徐々に湧き上がってきた感情が今にも爆発してしまいそう。
自惚れるな、まだはっきりとそう言われたわけではないのだから。