秘密の出産をするはずが、エリート外科医に赤ちゃんごと包み愛されています
「杏奈、答えてくれ。どこでそんな話を?」
三井先生は何度もそう食い下がった。どうしてそこまで気にするのか、私にはさっぱりわからないが、よっぽど都合の悪いことでもあるのだろうか。
「ロッカールーム、です。誰かが噂していて、それで」
次の陣痛の波がきて歯を食いしばって耐える。
声が漏れ出そうになるのを必死に我慢している私の額に浮かんだ汗を、三井先生はハンカチで優しく拭ってくれた。
「こういう時、男はなんの役にも立たないな」
「そんなことは」
そこまで言いかけてやめる。
正直なところ、一人じゃないと思うとものすごく心強い。
陣痛の合間にもポコポコ胎動があって、もうすぐ会えるのだと思うと嬉しいけれど複雑だ。
ちゃんと伝えよう。
この子は三井先生の子だけれど私が責任を持って一人で育てると。だからもう構わないでほしいと。お見合い相手のことだけ考えていればいいじゃない。
「俺は杏奈が好きだ」
陣痛が収まったほんの一瞬の隙を狙って三井先生は囁いた。全身に衝撃が走り、頭が真っ白になる。
今、なんて?
聞き間違いではないだろうか。
「本当だ、信じてほしい。見合いはしたが、ちゃんと断ったんだ。そもそも、強引に連れて行かれただけで俺の意思じゃない」
「そんな……」
三井先生が嘘を言っているようには見えなかった。
「好きだ」
熱のこもった視線が胸に突き刺さり、まともに目を合わせられない。
「こんな時に言うのは卑怯だとわかってる。でも今だから言うんだ」