グレーとクロの世界で
第1章
灯りのない家(夏音side)
「夏音!起きなさいっ!」
うるさいな…
「もうちょっと…」
「なに言ってるの!いつまでも休み気分じゃダメでしょ。今日から高校生なんだから。遅刻なんてしたら恥かくじゃない。」
高校生?
あぁ…今日入学式の日か……
入学早々遅刻はヤバいよね
っていうか恥かくって私じゃなくて、お母さんが、でしょ?
それを口に出して言わない私は案外臆病なのかもしれない
「分かったよ、起きる……」
「着替えてから降りて来なさいね。」
「はい。」
寝ぼけた頭を何とか冷ましながら、私は新しい制服に腕を通した
これからの生活に心躍らせるようなことは無い
そんな夢の欠けらも無い生活を想像しながら朝ごはんを食べ、お母さんの小言を受け流していた
高校デビューがなんだ
いつもよりメイクに気合い入れたり、中学よりスカートを1回多く折ったり、世の新一年生は浮き足立っているのだろうか
私にそんなイベントのようなことは一つもなく、淡々と準備を済ませて学校へと向かった
きっと、今日からこんなつまらない生活がずっと続くのだろう
そう思うと憂鬱になる
というか、お母さんが家にいるのっていつぶり?
お母さんは、貿易会社の社長で、家にいることなんて滅多にない
入学式だからなのかな?
いや、きっとたまたま休みが今日だっただけで、また何週間も会わないんだろう
もう、家に一人ぼっちだからって寂しくなんかない
寂しいって、なんだっけ?
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