グレーとクロの世界で
あれから数日、俺と彼女の押し問答は続いた
俺は倉庫近くの繁華街に来ていた
この繁華街の一角には4代前の総長、高嶺さんが店を構えている
この辺りでは穴場スポットの洋食屋だ
たまには顔出せとしつこく連絡が絶えなかったことにいい加減嫌気がさし、諦めてさっきまで顔を出していた
店から出た途端雨が降り出し、全身を濡らす
誰もが雨から逃げるように早足になる中、一人ぽつんと空を見上げる奴の姿が目に入った
フードを被っていて顔は見えない
それにもかかわらず、なんだか、目が離せなかった
俺も足を止め、その人物を見つめていると、隠れていた顔が明らかになった
なんで、こんな所に…?
「………。」
何かを呟いた言葉は聞こえなかった
だが、その言葉は、彼女が助けを求めているように感じた
「何やってるんですか……?」
敬語はまだ外せない
それでも、声をかけずにはいられない
雨に濡れるからとか、そういう簡単な理由ではなく、ほっとけない
俺の声に振り返った彼女は珍しく驚いたような顔をした
そんな顔もするんだな
「何やってるのって聞いてるのが聞えませんか?」
「聞こえてるよ、本田くん。あなたこそ何やってるのよ。」
答えられないってか…?
あからさまに会話をすり替えられた
そんな簡単に逃さねぇよ
「俺はただ通っただけです。真鍋さんは?」
「私は……そうね。強いていえば用事の帰り。本田くんは、名取くんが一緒じゃないの珍しいわね。」
「ただの帰り道にはどう考えても見えないですが、言いたくないなら聞きません。これから用事は?」
「ないわ。言ったでしょ?用事の帰りって。」
「そうですか、じゃあこれから俺に付き合ってもらいます。
もう10時過ぎです。今更門限なんてないですよね?真鍋さん、暇な時間できても教えてくれなそうですし、善は急げともいいますし。」
夜の10時を過ぎた繁華街は、女が1人で出歩く場所じゃない
そんな場所に一人でいるのに、今更門限だなんて言わせない
「嫌よ。私はあなたにこれ以上関わる気は無いわ。関係ないし。」
「関係ないとか簡単に言わないで下さい。」
俺との関係を切ることは簡単にはさせない
俺が、繋ぎ止める
彼女が手を離しても、俺が掴んでやる
「じゃあ、こう言えばいいかしら?もう私に関わらないで。」
「なんて顔してるんですか。
そんな泣きそうな顔しないで下さい。ほっとけなくなります。」
言葉では強いことを言う
でも、自分の顔見てみろよ
泣きそうで、寂しいって顔してるの分からねぇか?
「そんな顔してない。」
「してますよ。真鍋さん、口の割に顔は素直なんですね。」
今まで気づかなかったが、表情がコロコロ変わる
泣きそうな顔は彼女の整った顔を崩す
それは儚げで、その表情さえも綺麗だった
涙を流し始める彼女を抱きしめたい衝動は抑えられず、背中を向けた彼女をゆっくりと抱き寄せた
「大丈夫。真鍋さんを一人にはしません。」
「その言葉の責任、取りなさいよ……。」
「はい。嘘はつかない主義なので。」
嘘は今まで沢山ついてきた
だが、彼女には嘘をつきたくねぇ
つくつもりもない