グレーとクロの世界で


……


きっと今の私の顔は誰が見ても間抜けな顔だろう

それほど衝撃的なことを言われた気分だった


「嘘、でしょ?」


「本気ですけど。」


「だって総長がこんな私を送るわけ「総長とか、そういうの今は関係ありません。」


キッパリと言い切った本田くんは、いつもより近い人に感じた

いつもは雲の上の存在という言葉がぴったりな人だから


「行きますよ。家の場所は海志からだいたい聞いてます。」


私の腕を掴んだまま歩きだし、もう片方の手には二つのバックが握られていた

いつの間に私のバック持ってきたんだろう

私に有無を言わせないその背中は、頼もしく見えた

この人が総長なら、暴走族も悪くないかも

そう思えてしまうほどに


でも、どんなに悪さのしない暴走族でも、私は関わっちゃいけないんだ

お父さんを裏切れないよ…


「本田くん。」


「なんですか?」


「ありがとう。でも、本当に一人で帰る。」


素直に、ありがとうという言葉が出た

これは間違いなく本田くんの優しさだから


「だから一人で帰せないって言ってるんです。今、自分の状態分かってますか?」


本田くんは、何故そんなに頑なに断るのか不思議そうな表情と、イライラしたような表情が見え隠れしている

でも、断る理由を説明する訳には行かない

というか、出来ない


記憶が曖昧な今、何をどう説明すればいいのか分からないし、熱でボーッとして上手く説明できる気もしない


「分かってる。でも、もう、これ以上私に優しくしないで…。」


‘ これ以上、私に温もりを与えないで…’

この言葉はなんとか飲み込んだ

私が人の温もりから逃げているのは分かってる

本田くんがくれる温もりは、私を幸せにしてくれるだろう

この温もりを手放したら、もう、温もりを感じることがこの先なくなるかもしれないのも分かってる

それをわかってても、触れちゃいけないの


「優しく?そんなの当たり前です。」


「え……っ?」


「真鍋さんは俺にとって大切な人ですから。」


そう言った本田くんの顔に嘘はないように見える

私が大切な人?

何もしてあげてないのに

むしろ貰ってばかり


「こんな立ち話してる場合じゃありませんでしたね。早く帰りましょう。」


今日だけなら、お父さんも許してくれるかな?

最後にするから

今日だけは、目をつぶって…

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