グレーとクロの世界で

「じゃあ、最後にして。」


「はい?」


意味がわからなかったのか、本田くんは私から目をそらさないまま首をかしげている


「今日は、一緒に帰る。私も、本当は一人で帰れる気しないし。」


「珍しく素直ですね。」


珍しくは余計よ

でも、ほんとにそうだね

私は、素直になるにはどうしたらいいのか分からない


「それで、最後ってどういう意味ですか?まぁ、車でその話は聞きます。とりあえず、校門に車着いたみたいなので、行きましょう。」


腕を引かれる力は優しいようで力強い

何も言わずに歩き続ける本田くんの足取りは、いつもより遅い気がした

きっと、私の体を気遣って居るのだろう

この人が暴走族なんて本当なんだろうか


倉庫に行ったのに信じ難いほど、本田くんは優しいから


ここで雑に扱ってくれた方がよっぽど心は楽なのに


優しくされるのが苦しいなんて思いもしなかった

無言のまま歩き続けたらあっという間に裏門に着いていた


そこにはすでに黒い高級車が止まっており、私たちの姿を確認した途端、車から人が降りてきた


「お帰りなさいませ、凪斗様。」


様?

暴走族の人?

それにしては大人すぎるような…


慣れたようにスマートにドアを開けるその仕草はまるで執事だ


「真鍋さん乗ってください。」


「どうぞ、お乗り下さい。」


「ど、どうも。」


場違いな感じがして落ち着かないが、ここまで来たからには腹を括るしかない


「し、失礼します。」


緊張ぎみに車内に乗り込むと、隣に本田くんも座った

本田くんが乗ったことを確認した執事さんらしき人は、ドアを閉め、運転席に座った


「福嶋さん、真鍋さんの家に向かってください。」


執事さんらしき人は、福嶋さんと言うらしい

今からは福嶋さんと呼ぶことにしよう


「かしこまりました。」


福嶋さんは表情一つ変えずに、ミラー越しに本田くんとアイコンタクトをとると、車は動き始めた


「で、さっきの〝 最後〟ってなんですか?」


「やっぱり明日、話す。今は、上手く話せそうにないから。」


心も頭も整理できない今、本田くんを納得させられるような説明をできる気がしない


「だから、明日、少しだけ私に本田くんの時間をくれない?」


ワガママな私の話を、本田くんは笑いもせずに聞いてくれる

本田くんだから、私は話そうと思った

本田くんだから、少しだけ素直になろうと思う


「俺にそんなことを言う人は初めてです。でも、真鍋さんだから許します。」


本田くんなら、そう言ってくれると思った


「ありがとう…。」


その言葉に安心した私は、また意識を無くした

体が限界だったのか、高級車の乗り心地が良かったのかはわからない

でも、隣に感じる本田くんの温もりが、とても心地良かったのは確かだろう


「離しませんよ。」


そう言った本田くんの言葉は、誰にも聞かれることなく、消えていった…
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