グレーとクロの世界で


「迷惑かけてごめんなさい。」


「いえ、迷惑なんて思ってないので。」


“迷惑”か…

この言葉が彼女の口から出ているうちは俺もまだまだだな

そんなことを考えていると、彼女は突然ベッドから降り、ベッド横の棚を開けた


「本田くん、着替えるから出てもらえる?」


「着替えてどうするんですか?」


「帰るの。親に何も言ってないし。」


よく夜遅くに帰ることがある彼女が、親のことを気にすることに違和感を感じ、俺は頭を捻った

そう言えば、彼女がどれくらい眠っていたか話してねぇな


「真鍋さん、今日は何曜日ですか?」


「金曜日でしょ?何言ってるの?」


やっぱりな…

今は夕方

昨日あれから少ししか眠っていないと考えたら妥当な時間帯だ


「真鍋さん。今日は土曜日です。病院に連れてきてから今まで眠ったままでしたから。」


「…え…っ?」


困惑した様子を見せた彼女だが、直ぐに冷静さを取り戻しベッドに戻った

突然帰ろうとした彼女の行動が気になり、俺は迷わず問いかける


「なんでそんなに急いで帰ろうとするんですか?」


「うちの母親うるさいの。だから、めんどくさくなる前に帰ろうとしただけ。」


そう話す彼女は自嘲気に儚い笑顔を浮かべた


「帰しませんよ。」


「なんで?」


「自分で言っといて忘れないで下さいよ。」


仕方ないが完全に忘れている顔だ

まぁ、熱もあれだけ高ければ覚えている方が不思議か


「昨日、明日時間を下さいって自分で言ってたじゃないですか。わがままは許しますけど、ドタキャンは許しませんよ。」


普段はドタキャンなんて当たり前だし、どちらかと言えばわがままの方が面倒だ

だが、彼女の場合は例外だ


「そう、だった。ごめん、忘れてた。
…何から話そうか。」


それから彼女の口から話された真実に、これまでの彼女の行動を連想させた


俺たちを遠ざけようとする彼女


やけに人を寄せつけない彼女


今までの数々の行動が繋がったが、この話を聞く限り、彼女に俺ら夜月とかかわる気はないということがよく分かった

だが、それだけは許さねぇよ

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