今夜も抱きしめていいだろ?
目黒で焼きそばを食べてから恵比寿へ移動した。

そうそう、それから?

夕暮れ時で街の雑踏ですらロマンチックに見えた。

そうそう、それから?

カフェがバーにもなるようなかなりお洒落な店に入った。

そうそう、それで?

飲み始めておしゃべりが止まらなくなったのは

彼女が気さくだからか

自分が話し役になるなんて有り得ないと思ったんだ。

かなりアルコールが入ったせいでもあった。

そうそう、そうだった。

その後?

彼女がカウンターに頬杖をついたまま目を閉じて

急に何も話さなくなってしまった。

どうしたらいいのかわからなくなった僕は

鈍い頭で懸命に考えた。

タクシーで送るには時間が遅すぎた。

真夜中の0時を過ぎていたからだ。

そんな時間に家へ帰したら

彼女の家族になんと思われるか考えただけでも恐ろしい。

そうだ!

早川の系列ホテルが近くにあったのを思い出し

いつでも利用できるVIPカードでスイートを取った。

なんとかタクシーで移動し

ホテルのエレベーターに彼女と乗り込んでこの部屋に来た。

それから、それから?

彼女がいきなり飲み直すと言い

ソファに座って部屋にある酒を片っ端から二人で開けた。

泥酔いで先につぶれたのは僕だ。

そのままソファで眠ってしまい

ふらふらと歩いてベッドに横になったのを覚えていた。

さっきベッドで目を覚ました時は

パンツ一丁にバスローブだったな。

彼女が脱がせてくれたのだと思い

超絶に恥ずかしかった。

酒に酔った勢いで彼女に手を出してないことだけは確信していた。

とそこまで思い出して

シャワーのコックを戻し

バスタオルで水滴をぬぐって洗面を済ませた。

ふとミラーに映ったバスタブに目を向けた。

待てよ、

確かこのホテルはローズ・バスが売りだったな。

あとで彼女が使えるよう湯をはりながら

備え付けの香油をボトルから適量垂らしたら

バスルーム内に柔らかなバラの香りがふわっと広がった。

バスタブのそばにはバスケットが置いてあり

赤やピンク系のバラの花びらがどっさりと盛ってあった。

それを全部湯に浮かべた。

好きだから

彼女を少しでも癒してあげたかった。

好きだから

自分にできる全てで何かをしてあげたいと思った。

再びパンツにバスローブ姿でベッドルームをそっとのぞいた。

彼女はまだ夢の中だ。

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