今夜も抱きしめていいだろ?
温子はボーイに押されたワゴンでさえ豪華に思えた。

恐らく純一には普通のことなのだろう。

ホテル財閥のお坊ちゃまにとって

スイートでルームサービスは特別でも何でもないことの一つだ。

贅沢に慣れている人種と付き合っても先が見えるとはこのことだ。

温子がバスローブ姿のままソファでそんなことを考えている間に

テーブルにはツナサンドやティーセットやカットフルーツが並んだ。

ボーイはいつの間にか部屋を出て行ったようだ。

「お待たせしました。食べましょう。」

「ありがとう。贅沢すぎて嬉しい。」

「単なるサンドイッチですよ。贅沢とは言えないでしょ?」

「そういうことじゃないんだけどね。」

温子はツナサンドをもぐもぐ食べながら

見るともなく眼に映る純一が

ティーポットから熱いアッサム茶をカップに注いでいた。

贅沢に慣れる未来の自分が脳内に見えた。

これはマズいと頭の端っこにメモした。

午前中は昨夜のアルコールが体内から抜けないとわかっていた。

まさかスイートでゴロゴロして過ごすわけにはいかない。

温子はあれこれ思案した。

「温子さん、紅茶をもう一杯いかがですか?」

「ありがとう。頂きます。」

さてと、どうするかな?

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