今夜も抱きしめていいだろ?
温子はパンツスーツに身を固めた殺風景な自分のスタイルには

意識して目をつぶった。

周りに立つオシャレな服で誰かと待ち合わせだろう数人の女性に

悔しい気持ちとあきらめの半々な面持ちで

黒いビジネスバッグをギュッと握った。

やっぱり無理しなきゃよかったかも。

週の半ばにどうしても純一の顔が見たかったのだ。

なぜか気になって気になって仕方がないという気持ちを

抑えきれなくてこのざまだ。

「温子さん!」

「純一。」

「お待たせしました。」

「ありがとう。急にごめんなさい。」

「全然。それより温子さんの方は大丈夫ですか?」

「えっ?」

「平日は忙しいのではないですか?」

「ううん。大丈夫。」

良かった。

顔が見れて。

なんか疲れが吹っ飛んだ。

嬉しい。

たったこれだけの会話で

すでに気持ちが満たされた。

「ふふ。」

「何ですか?」

「何でもない。さっ、食べに行きましょ。」

「はい。」

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