桃色のアリス
荷物を持って門へ行くと、すでに女王様とチェシャ猫が待っていた。
「アリス!!遅いわよ!」
「ご、ごめんなさい!!」
チェシャ猫は相変わらず黒いマントにフードを深く被っている。
前、見えてるのかな?
「準備はいい?」
「うん。大丈夫だよ」
荷物の準備は昨日したし、朝しっかり中身を確認した。女王様は目を伏せて決意したのか、手に握っていた何かを私に見せた。
「アリス、これを」
「時計……?」
女王様から差し出された物を受けとる。時計のチェーンがジャラっと音をたてた。金色をした高そうな懐中時計。
「私の妹が持っていたものよ。おそらく白ウサギと黒ウサギは、これと同じ懐中時計を持っているわ」
「女王様の妹の?」
金色の時計の蓋を開く。時計は正確に動いていた。
「……え?これ……」
蓋の裏に彫られた文字。
“Alice”
「“アリス”?」
時計の蓋の裏には英語で“アリス”と彫られていた。
「私の妹は十三代目の“アリス”だったのよ」
「女王様の妹が……十三代目のアリス?」
「妹はウサギを追いかけたわ。世界の崩壊を防ぐためにね」
チェシャ猫も私も、黙って女王様の話を聞いた。
「アリスはウサギの時計を止めたわ。現に、世界が崩壊していないのが証拠よ」
女王様は悲しそうに眉を寄せる。悲痛な表情の女王様を見るのはいつぶりだろう。
「世界は崩壊しなかった。けれど……」
女王様が俯く。何が……あったの?