桃色のアリス
「アリス殿! アリス殿!」
「何かね。入りたまえ」
「申し上げます。女王様より急ぎのご命令です」
「急ぎの命令?」
また女王様が我が儘を言い出したんじゃ、と考えを巡らせる。つい先日、呼び出されたばっかりなのに。
嫌いな食事を出されたと言って、コックを処刑すると言う女王様をなだめるのは骨が折れた。私が転んでその食事を女王様の頭に思いっきりかけちゃったものだから、更に事態は悪化したんだけど。
国の、不思議の国の主として長い時を生きることを許された女王様は私よりずっとずっと長く生きているはずなのに、嫌いなものは克服できないらしい。長く生きるからこそ、好き嫌いがはっきりとするものなのか、とにかく我が儘で傲慢なこの城の女王様は、毎日トランプ兵を困らせている。
「はい。先程この城に客人が来られまして」
「女王様に?」
「いいえ、女王様とアリス殿に御用のある客人です。アリス殿も来るようにと」
「私にも?」
女王様に来客が絶えないのは知っている。けれど、私も含めて訪ねてくる客人は今まで一人も来たことがない。
私とジャックさんは顔を見合わせた。ジャックさんは珍しくため息をつくと、私を誘導するように手をとる。