君を名前で呼びたくて
「こんばんは!
はなまる教室のねこ先生です!
あきと君、今日も一緒に算数、
がんばろうね!」
アニメのキャラクターのように鼻にかかったかわいらしい声で話して、子供の興味を引きつける私は、あえて受話器を口元から離す。声優のように声を張るので、受話器が近いと声が割れるし、何より、先方がうるさくて耳が痛くなっては困るから。
私は1年前に転職をした。それまで勤めていたガラス工場の社長がある日突然夜逃げをしたから。
一昨年の11月末、社長は給与未払いのまま姿を消し、会社は倒産した。当然、翌月貰えるはずだったボーナスも支払われることなく、私は無職となった。
それから3ヶ月後に出会ったのが、この(株)はなまるだ。通信教育のこの会社では、専用のタブレットで指導をする。そこまではよくある教材なんだけど、違うのはその後。専用アプリは通話機能があり、電話のように直接対話で間違えたところの指導やその日あったことなどの日常会話をする。一般的な通信教育が付録やポイントによるご褒美の品で子供のやる気を引き出すのに対して、このはなまる教室では、先生と会話できるということそのものをご褒美にしている。
そして、私の仕事は、教務である。
教室の管理・運営はもちろんのこと、主な仕事は体験学習の指導だ。
営業さんが小学生のいる家庭に3日分の体験教材を届け、私たち教務が約束の時刻に電話をして、丸つけをしていく。
「ピンポン! 正解!
あきと君、これも丸つけてね。
できた?
じゃあ、最後に花丸と100点を
書けるかな?」
専用タブレットがない体験では、アナログなプリントと電話を使用するが、内容はほぼ同じだ。
「じゃあ、あきとくんから、ねこ先生にお話
したいこととか、聞きたいことはある
かな?」
ねこ先生とは、私のこと。ここでは、子供が楽しく勉強できるように、先生は全員動物の名前だ。ねこ先生の他に、うさぎ先生、きりん先生、ライオン先生、りす先生…他にもいろいろ。そして、その先生たちがみんな元気よく指導するので、ここはさながら動物園のように賑わしい。
『んー、ない』
これは普通の反応。初めて話す人にいきなり話せる子なんて、滅多にいない。
そんな時はこちらから質問をする。
「じゃあ、あきとくんはどんなお勉強が
好きかな?」
『えぇ? うんとね、体育!』
「そうなんだ。体育楽しいよね。
あきとくんは、体育の中でも何するのが
好きなの?」
『全部好きだけど、ドッジかなぁ』
「へぇ、すごいね。じゃあ、あきとくんは
速いボールでも取れるの?」
『うん!』
「すごい、すごい!
じゃあ、あきとくん、明日は3枚目の国語
やるから、プリントやっておいてね」
『はーい』
「じゃあ、お母さんとお電話代わって
くれる?」
『うん、いいよ』
『お電話代わりました』
優しそうなお母さんの声。
「はなまる教室です。今、あきとくんと
丸つけが終わりまして、100点満点
でしたよ。ぜひ後で見てあげてください」
『ありがとうございます』
「あきとくん、ドッジボールが得意
なんですね。速いボールもちゃんと取れる
って教えてくれましたよ」
『ふふ、そうですか?』
お母さんから、照れたような嬉しそうな笑いが溢れる。
「はい! それで、明日も国語の丸つけを
する約束をしたんですが、これくらいの
お時間なら、いらっしゃいますか?」
『はい、大丈夫です』
「ではまた、明日、よろしくお願いします」
翌日のアポを取って終了する。
今回のあきとくんやお母さんとの会話を資料に記載して1人終了。
はなまる教室のねこ先生です!
あきと君、今日も一緒に算数、
がんばろうね!」
アニメのキャラクターのように鼻にかかったかわいらしい声で話して、子供の興味を引きつける私は、あえて受話器を口元から離す。声優のように声を張るので、受話器が近いと声が割れるし、何より、先方がうるさくて耳が痛くなっては困るから。
私は1年前に転職をした。それまで勤めていたガラス工場の社長がある日突然夜逃げをしたから。
一昨年の11月末、社長は給与未払いのまま姿を消し、会社は倒産した。当然、翌月貰えるはずだったボーナスも支払われることなく、私は無職となった。
それから3ヶ月後に出会ったのが、この(株)はなまるだ。通信教育のこの会社では、専用のタブレットで指導をする。そこまではよくある教材なんだけど、違うのはその後。専用アプリは通話機能があり、電話のように直接対話で間違えたところの指導やその日あったことなどの日常会話をする。一般的な通信教育が付録やポイントによるご褒美の品で子供のやる気を引き出すのに対して、このはなまる教室では、先生と会話できるということそのものをご褒美にしている。
そして、私の仕事は、教務である。
教室の管理・運営はもちろんのこと、主な仕事は体験学習の指導だ。
営業さんが小学生のいる家庭に3日分の体験教材を届け、私たち教務が約束の時刻に電話をして、丸つけをしていく。
「ピンポン! 正解!
あきと君、これも丸つけてね。
できた?
じゃあ、最後に花丸と100点を
書けるかな?」
専用タブレットがない体験では、アナログなプリントと電話を使用するが、内容はほぼ同じだ。
「じゃあ、あきとくんから、ねこ先生にお話
したいこととか、聞きたいことはある
かな?」
ねこ先生とは、私のこと。ここでは、子供が楽しく勉強できるように、先生は全員動物の名前だ。ねこ先生の他に、うさぎ先生、きりん先生、ライオン先生、りす先生…他にもいろいろ。そして、その先生たちがみんな元気よく指導するので、ここはさながら動物園のように賑わしい。
『んー、ない』
これは普通の反応。初めて話す人にいきなり話せる子なんて、滅多にいない。
そんな時はこちらから質問をする。
「じゃあ、あきとくんはどんなお勉強が
好きかな?」
『えぇ? うんとね、体育!』
「そうなんだ。体育楽しいよね。
あきとくんは、体育の中でも何するのが
好きなの?」
『全部好きだけど、ドッジかなぁ』
「へぇ、すごいね。じゃあ、あきとくんは
速いボールでも取れるの?」
『うん!』
「すごい、すごい!
じゃあ、あきとくん、明日は3枚目の国語
やるから、プリントやっておいてね」
『はーい』
「じゃあ、お母さんとお電話代わって
くれる?」
『うん、いいよ』
『お電話代わりました』
優しそうなお母さんの声。
「はなまる教室です。今、あきとくんと
丸つけが終わりまして、100点満点
でしたよ。ぜひ後で見てあげてください」
『ありがとうございます』
「あきとくん、ドッジボールが得意
なんですね。速いボールもちゃんと取れる
って教えてくれましたよ」
『ふふ、そうですか?』
お母さんから、照れたような嬉しそうな笑いが溢れる。
「はい! それで、明日も国語の丸つけを
する約束をしたんですが、これくらいの
お時間なら、いらっしゃいますか?」
『はい、大丈夫です』
「ではまた、明日、よろしくお願いします」
翌日のアポを取って終了する。
今回のあきとくんやお母さんとの会話を資料に記載して1人終了。
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