君を名前で呼びたくて
私は食べながら、お祝いを言う。

「2000万達成、おめでとうございます」

「ありがとう。
 ねこ先生にそう言ってもらえるのが1番
 嬉しいよ。
 会社ではさんざんバケモノ扱いされた
 からね」

中橋さんは最後に苦笑をこぼした。

「本当にすごいと思います。
 1件も取れなくて叱られる人もいる中で、
 中橋さんはちゃんと結果を残してるん
 ですから」

他の営業所の教務の人が言ってた。

営業が弱くて結果を残せないと、教務が弱いせいにされることもあるって。

でも、うちは中橋さんが契約を取ってくれるおかげで、悪いのは教務じゃなくて営業だってはっきり示してくれている。

「今月はね、絶対に2000万を超えるって
 決めてたんだ」

そう言って笑う中橋さんを見て、胸が苦しくなった。

所長になるためだ。

300万の売り上げで所長になる人もいる。

でも、やっぱり、2000万上げられる人が上司だと、部下から寄せられる信頼が最初から違う。

「昇進おめでとうございます」

私がそう言うと、中橋さんは不思議そうに首を傾げる。

「なんで?」

「あ、あの、所長が電話で話してるのが
 聞こえてしまって…… 」

「ああ、そうか。
 でも、それ、断ったんだ」

と中橋さんは、最後の一口のチキンステーキを頬張った。

「え?」

「断ったんだ。
 転勤したくなくて」

「じゃ、どうして…… 」

「断った時、所長に言われたんだよ。
 上に『こいつは管理職にするより前線に
 置いた方が得だ』って思わせろってね。
 だから、いつもはそんなに売り上げって
 気にしないんだけど、今月はどうしても
 2000万を超えたかったんだ」

そう…なの?

「出世したくないんですか?」

そう問いかけると、中橋さんは少し顔を曇らせた。

「ねこ先生は俺が異動すればいいと
 思ってた?」

私は慌てて首を横に振る。

「そういうわけじゃないんですけど、
 なんとなく男の人って、出世したいのかな
 って思ってて…… 」

「出世に興味がないわけじゃないよ。
 でも、それ以上に大切なものがあるから」

「大切なもの?」

なんだろう?
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