禁断プラトニック~元若頭が惚れたのは女子高生~
俺は当然虎之助のおやっさんだろうと思ったのだが、その予想は外れた。
面会室のアクリル板の向こうにいたのは、おやっさんとは質の違う威厳と貫禄を兼ね備えた、上品な六十代くらいの紳士だった。
「はじめまして、になるだろうか。私は沖田孝蔵と言う者だが」
「沖田……?」
俺は思わずぴくりと眉毛を震わせた。沖田と言われて思い出すのは、俺が生まれて初めて惹かれた、それでいてどうあがいても手に入らなかった女性の名だ。
とはいえ、彼女はすでに結婚し、別の苗字になっているだろうが……。
俺がこんな場所に入るきっかけになった過去の事件を思い出し、なんともいえない気持ちになっていると、目の前の紳士が続けた。
「ああ。娘の名は美織。そして父の名は、勝又虎之助だ」
「え……?」
ということは、この男は沖田美織の父親……? 確か、みそら銀行の頭取だったはずだよな。
そんな大層な地位を築いた人間が、おやっさんの息子だと……?
「信じられないかもしれんが、私ときみは、年の離れたいとこ同士なのだよ。……それで、どうしても他人事とは思えなくてね。運命の掛け金が少しでも違えば、私もきみのような立場になっていてもおかしくはなかったんじゃないか、と……」