ポケベルが打てなくて

 ……っつー訳で、四時限目を終えた昼休み。
 授業の終わりを告げるチャイムが鳴り始めたと同時に(教師がまだ黒板に書いている途中にもかかわらず)教室を飛び出して、管理棟一階の公衆電話を目指してダッシュ。

 今度は確実に一番乗り――――――……って、嘘だろっ!?

「あぁぁ、昼休みは激戦区って聞いてたけど、まさかここまでとはね」

 今回も一緒に来ていた井上は、腕組みしながらため息をついた。

 一時限目の休み時間と同じく公衆電話から始まっているその列は、階段を上って上って……最上階の3階にある図書室付近まで延びている。

 はぁ……。最悪、昼飯を食いそびれることを覚悟で並ぶしかねぇよな。
 列の最後尾につくと、ふと、一時限目の休み時間とは少し様子が違うことに気付いた。

 ……俺の前に並んでるヤツ、サンドイッチ食ってやがる。
 あ、その前のヤツは、購買で三時限目の休み時間から買えるバーガーっ。
 さらにその前のヤツは、駅から学校の途中にあるコンビニのおにぎりっ!


「携帯食。……いや、非常食?」
「井上、なんで教えてくれなかったんだよっ!? 分かってたら弁当持って来たのにっ」
「オレ、昼休みは『女の子に会いに行く時間』って決めてるからさ、こんなに並んでるなんて知らなかったんだよね」
「……あ、そう。で、今日は会いに行かなくていいのかよ?」
「んー? だって、松田のことが心配じゃん?」
「ぬわっ!! 腕にまとわりつくなっ、気色悪いっ!!」
「いいよなぁ、松田は。なっちゃんがいてさ」
「『なっちゃん』とか呼ぶなっ。……っつーか、おまえだって彼女いるんだろ?」
「特定の彼女はいないけど」
「……はぁ? マジで? っつーか、何で?」
「ん……なんか、みんな『友だち』な感じ? それ以上のコって、なかなかいないんだよね」

 井上は軽く両手を広げて、大げさに悲しむそぶりをしてみせた。
 ……どうやら、モテ男にはモテ男なりの悩みがあるらしい(本気で悩んでいるようには見えないが)。




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