桜が散ったら、君に99回目のキスを。
「悪い人じゃなさそうだったよ。そんなに派手でもなかったし」


むしろ朝の慌ただしい中、見ず知らずの人間を助けてくれたのだから好感度は抜群だ。


「珍しい、円依が男子の話をするなんて」


「そうかな」


「いつも小説の話ばっかりだから2次元に恋してるのかと思った。円依にもようやく春が来たかな」


「そんなんじゃ」


「分かってるよ。だからもう一度会えるといいねって」


かこは眩しそうに笑いながらそう言った。


もう一度……。


私は頭の中で考えを巡らせる。


もう一度会いたいか、と問われれば会いたいのかもしれない。


でもそれがどこから来る想いなのかは分からないし、向こうが覚えていなかったら?なんてことも考えてしまう。


会いたいような、会いたくないような。


ぐるぐる巡る想いは取り留めがなくて、どこか光を含んだ曇り空に似ている気がした。
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