桜が散ったら、君に99回目のキスを。
「…座れば」


電車が停車して再び動き始めた時、高くもなく低くもない、柔らかな声が左上から降った。


驚いて相馬くんの顔を見上げると、相馬くんは視線で目の前の席を示した。


さっきのサラリーマンが空けたまま、誰もが遠慮をして座らなかったのだ。


そのまま素直に座るのは少し憚られて、私は辺りを見渡す。


右にいたOLさんは微笑ましそうに頷いてくれた。


もう一度相馬くんを見ると、彼はどうぞと静かに笑う。


おずおず、といった感じで腰を下ろした私は相当不格好だったはずだ。


スクールバックを膝の上に乗せて上目遣いでこっそり相馬くんを盗み見ると、彼はまだ微かな笑みを口元に残していた。
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