桜が散ったら、君に99回目のキスを。
「俺、ここだから。…それじゃ」


2駅前の大きな駅でほとんどの人は降りるから、車内は十分に空いていた。


彼の後ろ姿に“もっと”を願ってしまうことがどういうことなのか、私はもう答えを見つけている気がした。


胸に溢れる想いは暖かくて、少し切ない。


私、心臓が変になったみたいだ。


ふと、ドアの前で相馬くんが振り返る。


「次は敬語なくていい。多分、同い歳だから」


「え…」


なんで分かったんだろう。


制服は学年に関わらずみんな一律灰色のセーラーワンピで、スカーフの色も白だ。


そもそも違っていたって相馬くんが知るはずはないのに。


相馬くんは電車を降りる。


私は慌ててその横顔に「また…!」と投げかけた。


少しぼやけた車窓越しに見えた相馬くんの唇が同じように「また」と動いて、緩やかな弧を描いた。
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