桜が散ったら、君に99回目のキスを。
「…別に、悪くないと思う」


「……え?」


微かに聞こえた声に顔を上げると、相馬くんはもう既に車窓を眺めていた。


いつもと変わらない、少し寡黙な相馬くんがそこにいた。


まるでさっきのが幻みたいに、でも高鳴った胸が嘘だと主張する。


「やっぱり、ずるい…」


小さく呟いた声は、彼の耳には届かない。


同時に届かなくてよかったなんて思ってしまうのは、きっとやっぱり少し暑い暖房で頭がやられてしまったからだ。


「…そういえば、白峰女子って体育館に給水器ある?」


もう一度聞きたかったけれど、相馬くんはあっさりと話題を変えてしまった。


彼みたいな人を女泣かせと言うのかもしれない。


飄々としていて、こっちがどきどきしていることなんてまるで知らなくて、たまの言葉は暖かくて。


相馬くんはずるいでできているんじゃないかとすら思ってしまう。


むくれてしまいそうになるのを堪えながら、私は口を開いた。


「校舎の中にはあるけど……体育館には水道しか無かったと思う。どうして?」


「聞いてない?うちの体育館が工事中だから、そっちで球技大会やるんだけど」


そっちのって……


「えぇ…!?」

思わず飛び出してしまった声を手で押えて、すみませんともごもご謝る。


周りから刺さった視線が痛い。


でも、と私は心の中で言い訳をする。


確かに白峰女子は一般に向けて体育館を解放することもあるけれど、相馬くんの学校が来るなんて思わないじゃない。


言われてみれば私たちの学校は山地にあるから、西浜高校の近くと言えばうちしかないけれども、まさか、まさか───
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