桜が散ったら、君に99回目のキスを。



バスケットボールが地面を弾く音と、シューズのゴムが地面を擦る音が耳に反響する。


接戦の中、私はただぼーっと相馬くんの姿を目で追うことで精一杯だった。


校舎の影で見た2人の姿が忘れられない。


もしかこがこのことを知ってしまったらどうするんだろう。


かこだって私の大事な人だ。


悲しませたくない。


でも、私の想いはどこに捨ててしまえばいいの。


好きだという想いはそう簡単に消えてくれない。


「…ね、かこ」


「ん?」


頬を赤く染めて、祈るように試合を見守っていたかこは小首を傾げて私を見る。


さらり。


細い肩から髪がひと房、滑り落ちて揺れた。


「かこの彼って名前なんて言うの?」


声が震えてはいないか。


私の見間違いなんじゃないか。


そんなことを考えた。


でも、


「相馬聖利。かっこいい名前でしょ」


かこは私の知らない相馬くんの下の名前を知っていて。


また喉の奥が熱くなってぐっと堪える。


「うん、いい名前」


そう言って笑うのは優しさなんかじゃない。


かこに対する嫌な気持ちというのは全くと言っていい程なく、祝福の気持ちも、上手くいって欲しいという願いでさえ変わることはなかった。


自分の中に生まれる感情が、いつも同じ方向を向いているとは限らない。


ただ、それだけのことだ。
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