桜が散ったら、君に99回目のキスを。
「円依は“小説の君”見つかったの?」


かこは何も知らない。


このまま言わずにいた方がいいのかもしれない。


「……見つからなかったよ」


そういうとかこは少し寂しそうに「そっか」と呟いた。


相馬くんの手から離れたボールは、綺麗な弧を描いてネットに吸収される。


まるで、もとあるべき場所に還るように。


周りの温度がまた1度上がった気がする。


それとも、私の温度が下がってしまったんだろうか。


いつかはきっとバレてしまうのだと思う。


かこが私の話をしたら、きっと相馬くんは私だと気づく。


そうすればかこだって“小説の君”が相馬くんだと気づかないはずがない。


君が、かこの好きな人でなかったらよかったのに。


私の好きな人が、君でなかったらよかったのに。


今さら願ったってもう遅い。
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