桜が散ったら、君に99回目のキスを。
お母さんだって初めから過保護だったわけじゃない。


私が小さな頃、ふと目を離した瞬間に知らない人間に着いていきそうになったからだと何度も聞いた。


その時から、きっとお母さんの中にはずっと“もう二度と円依を危険な目に遭わせてはいけない”という想いがあるんだ。


その想いまで否定することは、私にはできない。


「この間も繁華街で暴力沙汰起こしたって。やめなさいよ、そういう子と付き合うの」


お母さんは続ける。


握り締めたシーツには深く皺が刻まれた。


ねぇお母さん。


私の知っている相馬くんは、


大人で、


凪のように静かで、


分かりずらいけど優しくて、


「…相馬くんはそんな人じゃないよ」


「相馬くん?」


お母さんが手を止めて聞き返す。


「助けてくれた人なの」


出会った時と今と。


2回も。


分かって欲しい。


私は相馬くんのことを好きにならなくたって、相馬くんの優しさに心を揺さぶられていたはずだ。


「付き合ってるの?」


お母さんは静かな声でそう尋ねた。


「違うよ」


否定した声は硬かった。


「相馬くんは彼氏でもないし………友達でもなんでもない」


友達だと自惚れていられればよかったのに。


知ってしまった感情は、もう無垢な感情に戻せない。
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