桜が散ったら、君に99回目のキスを。
カラン。


入口の方で氷の擦れる音がした。


その音に導かれるように視線を移して、息を呑む。


「………っ」


ゆっくりとこちらに歩いて来たのは相馬くんだった。


その手には膨らんだ氷嚢が握られている。


もしかして、今の聞かれた───?


「鳴宮さん」


呼ばれた名に身を固くした。


相馬くんの顔は見れない。


私は今、ありったけの言葉で相馬くんを拒絶したんだ。


「これ、氷」


相馬くんはなんでもない様に私に氷嚢を手渡す。


「あ…ありがとう」


硬い声のまま、お礼を言う。


聞こえていなかったの…?


そんなはずは無い。


だって私の名前を呼んだ時、相馬くんはほんの一瞬だけ戸惑った表情をしていた。


あの距離で聞こえなかったはずはないんだ。
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