桜が散ったら、君に99回目のキスを。
あの日以来、相馬くんはいつもの車両から姿を消した。
肩に触れる温もりも、遠い昔のような気がする。
何がいけなかったかなんて分かっている。
あの日私が相馬くんを拒絶したように、私は謝ることすら拒絶されてしまったんだ。
ひとりで電車に揺られるのも、元に戻っただけのこと。
たった15分の僅かな時間が、暖かさを錯覚していただけのこと。
それでも人波の中に、相馬くんの姿を探してしまう。
胸の中の想いはずきずきと疼くばかりだった。
「円依、元気ないけどどうしたの?」
かこは困ったように聞いた。
いっそ全てを話してしまおうかとも思ったけれど、自分が楽になるためにかこを使いたくなかった。
自分の都合のいいようにしてしまうのはエゴだ。
「今日の夕飯、私の嫌いなシチューなの」
顔を顰めてみせると、かこは明るい声を上げた。
「円依お子様だなぁ。絶対ピーマンとグリーンピースも嫌いでしょ」
「すごく不本意だけど当たり」
2人顔を見合わせて笑う度に、罪悪感が植え付けられていく。
収まれ。
収まれ。
収まれ。
私はいつも、想いが消えるのを待つことしか出来なかった。
想いの消し方なんて知らない。
後戻りの方法も分からない。
だけど感情が全てを壊してしまうなら、私は悠久の時でさえ耐えられる気がした。