桜が散ったら、君に99回目のキスを。
「なんだ…」


私はずっと、勘違いをしていたのか。


気持ちを偽る必要なんて、どこにもなかったんだ。


そう思うと悩んでいた自分が滑稽で、思わず笑いが込み上げた。


好きでいても、いいんだ。


嬉しくて、泣きたくて、胸が熱かった。


「ごめん」


「………?」


唐突に謝られるのは2回目だ。


謝られるようなことをされた覚えもない。


「泣いてるってことは聖利がなにか言ったんだろ」


「違うの。これは私の問題で…」


そこまで言って、ハッとする。


相馬くんだと思って聖利くんに声を掛けたのは、謝りたかったからだ。


謝らなければならないのは私の方。


誤解が全て解けたわけじゃない。


「あの、」


立ち上がって背筋を伸ばす。


真っ直ぐに見つめた瞳は柔らかく受け入れてくれる。


「球技大会の日、思ってもないこと言ってしまってごめんなさい。……聞こえてたでしょ?」


相馬くんは微かに笑った。


「そんなこと気にしてたんだ。俺はあれ、ただ言葉の綾だと認識してた」


「でも、次の日から電車で会えなくなって、それで怒ってるのかと…」


「風邪ひいて寝込んでた。そのあとは生徒総会の準備で早朝登校が続いて」


拍子抜けした理由にまた言葉を失う。


全てはボタンのかけ違いで、結局のところは何もなかった。


何も、心を苦しめることなんて。


「気にしなくていい。聖利が不機嫌だったのも、俺と間違われるのが嫌いなだけだから」


相馬くんは許してやって、と苦笑いしながらそう言った。


「…間違えちゃって悪いことしちゃったな」


いきなり呼び止められて、向こうも困っただろう。


ましてや知らない人間がペラペラ喋りだしたら不機嫌になるのも分からなくはない。


「聖利は寝たら忘れるタイプだから。球技大会の時も対戦相手のクラスにいたんだけど気づかなかった?」


相馬くんの問いかけに私は首を横に振る。


あの時はただ、自分の気持ちを整理するので精一杯で、周りなんて見れていなかった。


だからボールにも当たったわけだけど。


「雨の日私を助けてくれたのは渉利くんだよね」


「それ間違えられたら痛い」


「分かってるよ」
< 59 / 63 >

この作品をシェア

pagetop