桜が散ったら、君に99回目のキスを。
5回ほど繰り返すと体の中の怠さが溶けて、ようやく体が外気と同じ温度になった気がした。


その間、彼はずっと側にいてくれたらしい。


焦げ茶のローファーとがピクリともせず視界に映っていることに気づいて、私は慌てて口を開いた。


「あの……ごめんなさい。どうもありがとう」


「別に。たまたま近くにいたから」


彼は短くそうとだけ答えて立ち上がる。


つられて視線を上げると、初めて彼の顔が目に入った。


吸い込まれそうな真っ黒な瞳に、きちんとセットされた同じ色の髪。


派手な顔ではないけれど、整った綺麗な顔だった。


制服は濃灰色のタータンチェックで、セーターの腕には白のラインが1本入っている。


少々治安が悪いと噂される西高の制服だ。
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