桜が散ったら、君に99回目のキスを。
「あの!」
耳に差し込みかけたイヤホンを片手に彼が振り返る。
角ばった男の人らしい手が行き場を失くしたように宙で止まった。
「名前、聞いてもいいですか…?」
彼は僅かばかり目を見開くと、直ぐに柔らかい表情になった。
その表情になぜか堪らなく胸が騒いだ。
ぎゅっと、膝下まであるセーラーワンピに皺が寄る。
「相馬」
雑踏の中で、その声だけがクリアに聞こえた。
そうま。
ちゃんと、覚えた。
たったの3文字なのに、魔法みたいに特別なように思えて胸が熱くなる。
「私、鳴宮です。鳴宮円依です」
相馬くんは小さく、ずっと見ていないと分からないくらい微かに笑った。
「お大事に、鳴宮さん」
大きな背中が、人混みの中に消えていく。
ふわり。
風が舞った。
駅から見える大きな桜の木は薄紅色の小さな花びらをその身に纏い始めていた。
耳に差し込みかけたイヤホンを片手に彼が振り返る。
角ばった男の人らしい手が行き場を失くしたように宙で止まった。
「名前、聞いてもいいですか…?」
彼は僅かばかり目を見開くと、直ぐに柔らかい表情になった。
その表情になぜか堪らなく胸が騒いだ。
ぎゅっと、膝下まであるセーラーワンピに皺が寄る。
「相馬」
雑踏の中で、その声だけがクリアに聞こえた。
そうま。
ちゃんと、覚えた。
たったの3文字なのに、魔法みたいに特別なように思えて胸が熱くなる。
「私、鳴宮です。鳴宮円依です」
相馬くんは小さく、ずっと見ていないと分からないくらい微かに笑った。
「お大事に、鳴宮さん」
大きな背中が、人混みの中に消えていく。
ふわり。
風が舞った。
駅から見える大きな桜の木は薄紅色の小さな花びらをその身に纏い始めていた。