桜が散ったら、君に99回目のキスを。



傘についた雨粒を払って羽を束ねると、焦げ茶色の傘の先からパタタ、と雫が滑り落ちた。


新しい学期が始まったばかりなのに、最近はこんな空模様が続いてほんの少しだけ気分が落ちる。


「嫌いじゃないんだけどなぁ…」


私はそう小さく呟いて曇天を見上げた。


湿気を含んでまとまらない髪も、空から降る閉塞感も、確かにため息を吐きたくなる。


でも通学路に咲くハナミズキの葉に光る雨露だとか、屋根を叩く雫の音だとか、どこか特別さを秘めた時間は、いつも少しの幸せを運んでくれた。


それに……


───・・・大丈夫?


触れられた腕がまだ熱い気がする。


相馬くんがいつも電車通学なのかは分からないけれど、たまたま相馬くんがいる車両に乗れたのが雨のおかげだとすると、雨もそう悪くはない。


私はそんなことを思う自分に苦笑しながら、濡れたローファーを靴箱に置き、屋内用のシューズに履き替えて階段を上った。
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