堕とされて、愛を孕む~極上御曹司の求愛の証を身ごもりました~
「うそっ。このっ……! 待ちなさぁいっ!」
少しずつ縮まっていたはずの距離が、みるみるうちに開いていく。やがて、到着ロビーの正面玄関を犯人が出て行き、数秒遅れで私もそこを飛び出したものの、辺りを見回しても黒いフードはどこにも見えなくなっていた。
「いない……」
肩で息をしながら呟いていると、視線の先を黒いワゴン車が通過し、その中からフードの男が手を振りながら舌を出しているのが見えた。
私は深いため息をつき、その場にしゃがみ込んだ。
やられた……。車に乗られたらもう追いつけない……。どうしよう、あの人の荷物、奪われたままだ……。
肩まであるストレートの髪をくしゃっとかき上げるように頭を抱え、彼にどうやって説明しようと考えあぐねていた、その時。
「……逃げられちゃった、かな?」
ふと背後で、そんな男性の声が聞こえた。深みのある、甘い中低音。……色っぽい声だ。
でも、こんな場所でなぜ日本語が……。不思議に思いながら振り向いて、ますます驚いた。
え……っ? 今の日本語、この人が話したの……?
そこにいたのは先ほどのビジネスマンで、私の預けたスーツケースの取っ手をきちんと握りしめ、しゃがみ込む私を苦笑しながら見つめている。