堕とされて、愛を孕む~極上御曹司の求愛の証を身ごもりました~
志門さんが壁に近づいていき、一冊の絵本を手に取る。タイトルはなんと『シモンのおうち』だった。
「たまたま主人公の男の子がシモンという名だからって、母が買ってきてね。でも、内容もおもしろいんだ。兄弟が多いシモンは自分の部屋が欲しいといつも空想していてね。アリのように地下を掘って部屋を作ろうとか、リスのように木の中に住んでみようとか、海底なら魚を取って暮らせるなぁとか、色々悩むんだけど……やっぱり家族と離れたくないから、家の庭に自力で小さな小屋を建てるんだ。それが秘密基地みたいで憧れてね」
絵本の中のシモンに自分を重ね、秘密基地に憧れた少年時代の志門さんを想像するだけで、なんだかほっこり胸があたたまる。
「じゃあ、これも買っていきましょう?」
「ああ。しかし生まれる前からふたつもプレゼントを選んでいるなんて、気が早いかな?」
「そんなことないです。きっと喜んでくれます」
そんな幸せすぎる会話を交わしながら、展示室を一周見終わると、ショップで二冊絵本を買ってから、美術館を出た。
いつの間にか太陽が沈み、辺りはすっかり暗くなっていた。