堕とされて、愛を孕む~極上御曹司の求愛の証を身ごもりました~

「きみの気持ちがうれしかったんだよ。見て見ぬフリだってできたのに、迷わず犯人を追いかけてくれただろう? なかなかできることじゃない。お礼は、そうだな……美味しいザッハートルテを一緒に食べるというのはどう?」

 ザッハートルテ……! そのひと言に、ぱぁっと目を輝かせてしまったのが自分でもわかった。その現金な反応を彼は微笑ましそうに見ていて、恥ずかしく思いながらも、甘い誘惑には敵わなかった。

「……ぜひ、お供させてください」
「よかった。有名なホテル内にあるカフェなんだけど、ケーキの味も、アール・デコ調の内装もきっと気に入るよ」

 話しながら、タクシー乗り場に向かって歩き出す。彼は当然のように、私の大きなスーツケースを引いてくれた。

「アール・デコ?」
「二十世紀初頭に流行したデザイン様式のひとつで、直線的なパターンと幾何学模様が特徴なんだ。インテリアもだが、建築にも多く使われているよ。ニューヨークのクライスラービルなんかがそうだ」

 それなら私でも知っている。テレビでもよく見る、先端が尖った形の超高層ビルだ。

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