堕とされて、愛を孕む~極上御曹司の求愛の証を身ごもりました~
不可解に思いつつ、今度は消毒液とダスターを手にしてガラスのショウケースを拭くことにした。しかし、世良さんとの間に落ちる沈黙が気まずい。
「神谷」
「……は、はい!」
話しかけられた……。妙に緊張してシャキッと背筋を伸ばす私を、世良さんが険しい顔で見つめる。
「す……。す……」
「す?」
なにか話があるようなのに、挙動不審に「す」ばかり繰り返す世良さん。首を傾げながら続きを待っていると、カランとドアベルが鳴って、ひとりの女性客が店を覗いた。どうやら上尾さんが鍵をかけるのを忘れたようだ。
「あっ、ごめんなさい! 今日はもう閉店なんです……!」
私はお客さんのもとに歩み寄って頭を下げる。顔を上げると、その女性は私の目をジッと見つめて美しい微笑を浮かべた。
「あなたが神谷瑠璃さんね? はじめまして。私、志門の友人の春名友里恵と申します」
「志門さんの……! は、はじめまして! 神谷瑠璃です!」
彼のご家族には挨拶したけれど、お友達に会うのは初めてだ。
でもきっと、志門さんと同じような世界を生きる人なのだろう。高く結ったポニーテールには自信が現れ、凛としたパンツスーツ姿やなにげない仕草にも、洗練されたオーラを纏っている。