堕とされて、愛を孕む~極上御曹司の求愛の証を身ごもりました~
再び深刻な顔になってしまった私を見て、上尾さんが世良さんを肘でつつく。
「もう! 瑠璃ちゃんが余計に不安になること言わないでくださいよ」
「わ、悪い。そうだ、ケーキ持って帰るか? 昼間、生地の配合を変えたアプフェルシュトゥリューデルを試作していたんだ」
アプフェルシュトゥリューデル……ウィーン風のアップルパイだ。ザッハートルテの次に、私が好きなケーキ。
私を元気づけようとしてくれているふたりの気持ちがうれしい。なのにいつものように笑えず、無理して口角を上げ、お礼を言った。
「ありがとうございます。大好きです、サクサクのシュトゥリューデル」
きっと、そうとう醜い笑顔だったのだろう。世良さんと上尾さんは、ますます気の毒そうな表情になり、ふたりで顔を見合わせていた。
浮かない気分のまま残っていた雑務を終え、ノロノロと帰り支度を済ませて裏口から店を出ると、壁にもたれて世良さんが立っていた。
今日は彼も店に残らず帰るのか、黒のMA-1にジーンズという私服姿だ。