堕とされて、愛を孕む~極上御曹司の求愛の証を身ごもりました~

 友里恵さんのことはいったん忘れることにしてなんとか気を取り直し、帰宅後は家族と最後の夕食を楽しんだ。

「あまり頑張りすぎず、結婚生活を楽しんでね」と明るくエールを送ってくれる母に対し、「あの男に泣かされたら、すぐお兄ちゃんに言え! いつでも帰ってきていいんだからな!」と縁起でもないことを言い出す兄には少々呆れた。

 あの優しい志門さんが、私を泣かせるわけないじゃない……。心の内で呟きつつ、食後のお茶とともに、世良さんお手製のアプフェルシュトゥリューデルをいただいた。

 サクサクの薄い生地、優しい甘さのリンゴフィリング。ウィーン菓子らしい上品で洗練された味わいに心が安らぐのとともに、脳裏にふと世良さんから告白された時の記憶が蘇った。

『好きだ』

 彼らしい、飾り気のない言葉だった。気持ちには応えられなくても、友里恵さんのことでざわついていた心が、彼のまっすぐな告白に救われたのは確かだった。

< 147 / 226 >

この作品をシェア

pagetop