堕とされて、愛を孕む~極上御曹司の求愛の証を身ごもりました~

 しかし、この記憶の空白は入院を続けていても改善する望みは薄いらしく、搬送されてから五日、頭に帽子のように巻かれていた包帯が鉢巻レベルになったところで、俺は退院することになった。

 今後も経過観察のために何度か通院しなければならないが、とりあえず通常通りの仕事に戻れると安堵した。

 明日から復帰すると職場に連絡し、病院の個室で荷物をまとめていると、ドアがノックされ、婚約者の瑠璃が無邪気な顔を覗かせた。

「退院、おめでとうございます」
「……ありがとう、来てくれたんだね。ひとりで帰れると言ったのに」
「志門さんの顔が早く見たかったですから。家で待っているだけでは退屈ですし」

 屈託なく笑う瑠璃が眩しくて、俺はつい目を逸らしてしまう。

 意識を取り戻してから初めて顔を合わせた時、俺はつい彼女に『誰?』と失礼な発言をしてしまった。

 その時はショックを受けていたように見えたのだが、彼女は翌日から毎日俺の見舞いに訪れ、俺の失った記憶を埋めるように、色々な話を聞かせてくれた。

 しかし、彼女の話を聞いても自分自身では覚えがないので、他人事のように『そんなことがあったのか……』としか思えず、それがひどく後ろめたかった。

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