堕とされて、愛を孕む~極上御曹司の求愛の証を身ごもりました~

「今後もアンタがそんな弱気なことばかり言うようだったら、本気で彼女を奪わせてもらうからな。……肝に銘じておけ」

 床に座り込んだままの俺にそう言い残すと、世良はガチャっと荒々しくドアを開け、休憩室を出て行った。残された俺と瑠璃の間には気まずい沈黙が落ちる。

 しばらくすると、俺はため息をひとつこぼし、床に視線を落として自嘲した。

「自分でも殴られても仕方ないと思うよ。今の俺は」
「志門さん……」
「どうして、思い出せないんだろうな……」

 瑠璃の頬に手を添え、その顔をまっすぐ覗き込む。切なげに潤んだ瞳と視線が絡み、俺は吸い寄せられるように彼女に顔を近づけた。そして、今にも唇同士が触れ合いそうになった瞬間。

「瑠璃ちゃん、ケーキ――」

 ガチャっと休憩室の扉が開き、大きなケーキの箱を持った上尾さんが現れた。とっさにパッと瑠璃から離れ平静を装った俺だが、心は動揺していた。

 今……俺はなにをしようとしていた? 無意識で瑠璃にキスしようとしなかったか?

 自問自答する俺の胸は、ばくばくとうるさい音を立てていた。

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